モヤモヤから思考をはじめよう!
モヤモヤが哲学させる 第1回
こんにちは、大竹稽です。
2022年の7月に『自分で考える力を育てる 10歳からのこども哲学 ツッコミ!日本むかし話』を出版しました。
「自分で考える力を育てる」というサブタイトルにあるように、この本の主題は思考力。思考力といえば、2007年6月に学校教育法が改正されましたね。そこで学力の大切な要素として、文部科学省は三つ挙げています。
「基礎的な知識・技能」「思考力・判断力・表現力等の能力」「主体的に学習に取り組み態度」
中でも、二つ目の項目「思考力・判断力・表現力」には、日本の教育現状の切実な問題が現れています。
文科省から発行された『言語活動の充実に関する指導事例集【小学校版】』には、「我が国の子どもたちには思考力・判断力・表現力等に課題がみられる」と書かれています。
日本のこどもたちが、海外のこどもたちと比べて劣っている力が、「思考力・判断力・表現力」と分析回答されたようですね。
それにしても、法改正が2007年にされたのですから、すでに15年近く経ちましたね。当時の小学生たちは、もう成人しています。このような問題提起にも関わらず、そして学校の先生たちの尽力にも関わらず、相変わらず十分な成果が出ていないようです。
そもそも思考力とはどのようなものか?
さて、この問題と本気で向き合うためには、「そもそも思考力とはどのようなものか?」を明らかにしなければならないでしょう。
ここで少し、皆さんにも「考えて」もらいましょう。
問題です。「あらかじめ答えがある問題を解くことが思考することか?」
テストでは、難易度をどれほど上げたところで、必ず答えがあります。難易度の高い勉強といえば、中学受験の勉強が代表でしょうか。でも、どれほど難しくても、答えがない問題は問題になりません。思考力に関して、教育現場での最大の矛盾点がここにあるのです。
本来の思考力は、これとは真逆。
思考にとっては、答えがあるかどうか、解けるかどうかは大事ではありません。むしろ、問題を発見するかどうかが、思考の始まり、思考の決め手になるのです。
「解ける」問題ばかり用意するのは、まぁ「大人の都合」でしょう。だって、今やどこにいても「評価」がつきまとってくるのですから。先生たちは、こどもたちを評価しなければなりません。そして、それによって、自分たちもまた評価させなければならないのです。
思考力を開花させるためにやるべきこと
さらに、もう一つ大きな問題が。
教育者の多くは、教育のビジネス化に抵抗があるようです。しかし、そんな自覚にも関わらず、思考力の問題は常に資本主義の構造の中でしか語られません。資本主義の構造とは、目標・意味の可視化と言えるでしょう。成績が出され、点数がつくのも、可視化が要求されるから。解ける問題ばかりがこどもたちにあてがわれ、思考力が問題とされるこの現状から暴かれる真の問題は、先生たちの意思・やる気などではなく、資本主義が要請する可視化なのです。
では、思考力を開花させるためには親や先生はどうすればよいでしょう?いや、先生たちの刻苦勉励に敬意を評して、この際、親だけに焦点を当てましょう。
親としてどうすればよいのか?
「解けない問題だからこそ思考は可能になる」、ここが起点になります。
本来的な思考には点数はつきません。目標・目的も、意味・意義も、あらかじめ用意されません。不安定・不確実・複雑・不明瞭だからこそ、思考が可能になる。突き詰めれば、これらこそ思考の条件なのです。
解法が決まっていて、答えがはっきりしている問題など、思考に値しないのです。思考の経緯ではなく答えだけもてはやされるなんて、退屈極まりないことです。思考とは、そもそも遊びと同じくらい楽しいものなのです。
モヤモヤから思考をはじめよう
皆さんとは、「問題を解く」だけの思考から離脱していきたいですね。
これからの記事では、不安定・不確実・複雑・不明瞭を「モヤモヤ」と表現しておきます。何があるかわからない、そんなとき、ぼくたちはモヤモヤします。はっきりと原因がわからないから、モヤモヤする。
この「モヤモヤ」から思考開始です。そして、ネタバレになりますが、思考の秘訣は「逆転」です。
「豊かさは貧乏でなくなること」「自由は不自由でなくなること」ような逆転ではないですよ。貧しさ(不足している状態)も不自由(ままらない状態)も、そのまま活かしてしまうという逆転です。
パスカルは、フランスが生んだ人類史上稀にみる天才です。「人間は考える葦である」で有名ですね。彼は十歳未満で、現代の高校数学で習う整数定理を証明しました。十六歳で「パスカルの定理」を証明、十七歳では、自動計算機を発明、圧力の単位に使われる「ヘクトパスカル」は、パスカルの発見した「パスカルの原理」に由来します。
そんなパスカルが残した言葉を紹介しましょう。
「わたしたち人間の尊厳の全ては、考えることにある。わたしたちはそこから立ち上がらなければならないのであって、わたしたちが満たすことのできない時間や空間からではない。よく考えることに努めよう」
パスカル
現代日本人は、考えることを、即座に解くことに結びつけてしまいます。ここからきっぱり別れてしまいましょう。「解くのではなく考える」が大事なのです。
第2回では、もう一度、資本主義を取り上げて分析します。「解く」スピードばかり口にのぼるは、もううんざり。それを煽る破廉恥な教師たちも若干いますが、問題にすべきは資本主義という社会システムですから。第3回では、数々の哲学者たちに激励してもらいましょう。第4回から、「モヤモヤ」から哲学するための講義です。不自由や不安に代表される、様々な「モヤモヤ」テーマを用意しますね。
どうぞお楽しみに。
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