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「豊かさ」ってなんだろう?

モヤモヤが哲学させる 第2回

いきなりですが、「豊かさ」ってどんなものでしょう?

より具体的な質問にしましょうか。皆さんは、「豊かな生活」にどんなイメージを持つでしょう? お部屋の様子を絵に描いてみましょうか。

例えば、こちらには高級ブランドの服や靴やカバンがあります。

こちらには、パソコンや携帯電話が。もはや、なくては生活が成り立たないくらいのアイテムですね。もう、これらのものがない御仁には「変人?」のレッテルが貼られるかもしれません。

他にもこちらには、掃除機やオーブンレンジや冷蔵庫など。「え?そんな誰のウチにもあるもの?」の家電たちですが、掃除機だって、今や自動で動くようになりました。レンジや冷蔵庫も、ただ温めたり冷やしたりするだけでなく、他にもたくさんの機能がついています。

これらはどうでしょう?大きなテレビに大きなソファー。そして、ソファーが囲む大きなテーブル。セレブたちの住む家にありそうな豪華な家具の数々。

いかがでしたか?

あなたにとっての「豊かさ」は、これに類するものだったでしょうか?

©いとうみつる『ツッコミ!日本むかし話』
所有したものに支配されてませんか?

さて、もしかしたらクローゼット内で山盛りになっているかもしれないブランド品。でも、絵に描いたブランド品はコピー商品と見分けがつきますか? それがブランドである証拠を、どのように表現しましょう?

パソコンや携帯電話ですが、いまや、多くの仕事がこの中で遂行できるようになってきています。しかしもし、これほど依存しているものがなくなったら、どうしましょう? パソコン依存は、とてつもなく「貧しい」状態になってしまっているのでは?

たくさんの機能がついた家電たち。時短をうたうものも多くあります。でも、そんなに「時短!時短!」と騒いで、実際に時間は余っているでしょうか? 余った時間に、さらに予定を埋め込んでいたら、時短した結果もっと慌ただしくなっていませんか?

お城にでも調度するような家具たち。そのサイズと、生活のサイズはマッチしていますか? 所有したものによって、逆に支配されていませんか?

さてここで、もう一つ質問です。

この居住空間は、本当にあなたの望む豊かさですか?「はい」なら、それは、なぜでしょう? その理由は、本当にあなた自身の理由ですか? それは単に、資本主義が刷り込んだ価値なのではないでしょうか?

ぼくからの問いかけで「モヤモヤ」してしまったら、チャンス到来!ここから哲学の開始です。

さて、前回予告した通り、今回は資本主義を考察します。現代フランスの哲学者、ボードリヤールの資本主義批判の根底を、紹介しましょう。

「幸福は計量可能なものでなければならない。幸福はモノと記号によって計量できる物質的安楽でなければならない」
« Il faut que le Bonheur soit mesurable. Il faut que ce soit bien-être mesurable par des objets et de signes, du « confort ». »

ボードリヤールの資本主義批判の根底

「現代人は無自覚に、しあわせまでお金に換算している」と彼は警告しているのです。先ほどの「豊かな生活」のイメージを見てみましょう。

高級ブランドの服と靴とカバン。なぜ高級か? 最大の証拠は「値段」ですよね。そして、高級という格付けは、持ち主たちの差別化と競争を産みます。

機能がたくさんついた家電たち。有用でなければ機能ではないはず。でも、全ての機能を使いこなせていますか? むしろ、邪魔になっていませんか? にも関わらず、有用な機能が追加されないと新型にはならない。なんで、機能を減らした新型が出ないの?

©いとうみつる『ツッコミ!日本むかし話』
取り巻かれたモノによって思考は束縛され貧弱になる

この現状からボードリヤールは、資本主義のワナ「軽量化された幸福」を暴きました。

著者のジャン・ボードリヤールはフランスの哲学者。彼の『消費社会の神話と構造』に影響された代表例が、無印良品です。セゾングループの代表だった堤清二(せいじ)氏は、日本経済新聞で、無印良品の立ち上げには『消費社会の神話と構造』の影響があったと述べています。

せっかくなので、さらにモヤモヤさせる警告を、もう一つ引用しましょう。

「モノの増加によって豊かになった人間たちは、これまでのどの時代にもそうであったように、人間たちに囲まれているのではなく、モノによって取り巻かれているのだ」

なんともショッキングな現状分析ですね。

「モノによって取り巻かれている」ということはすなわち、人間がモノに支配されているということ。あなたはこれまで、「自分がモノを持っている」と思っていませんでしたか? 事情は逆なのです。モノたちがわたしたちを所有しているのです。しかもこれは、「しあわせ」や「豊かさ」にまで及びます。「しあわせ」や「豊かさ」がないと不安になり、そしてそれによって優劣をつけようとする。すると一層不安になってしまう。

そして、このような支配によって、思考も束縛され、貧弱になり、挙句の果てには力を失ってしまうのです。でも、資本主義社会に生きる限り、これは誰にも作用するもの、この刷り込みを免れることはできません。しかし、刷り込まれている自覚があれば、あとは、それを活かせるのです。

そのきっかけこそ「モヤモヤ」なのです。点数化・可視化されていないからこそ感じてしまう「モヤモヤ」。ここにこそ、本来の思考力のベースがあるのです。「モヤモヤ」を避けたがる時代だからこそ、いっそう、「モヤモヤ」が大事になってきます。

さてさて、第2回は、ここまでです。第3回は、哲学者や芸術家たちからの、モヤモヤメッセージをお送りしますね。

お楽しみに。

(大竹稽)

ツッコミ!日本むかし話

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