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22 麻布十番商店街会長選挙戦 花札怒鳴奴(はなふだドナルド)前編

麻布十番キャット三銃士~第22回

ひょうこ先生に商店街の会長さんから電話がありました。

「先生、ちょっとご相談したいことがありまして、ファッジちゃん今そちらにおいででしょうか」

「今日はうちにおりますが、なんでしょう」
ひょうこ先生は、会長さんがファッジに会いたいなんて、いつもと違う気がして、何かが起きそうな予感がします。

「実は、商店街の会長を決める集まりがあったのです、ちょっとしたことと言いますが、まあ本当は、先生にするようなご相談ではないのですが」
会長さんは歯切れの悪い返事をします。

「ファッジを会長にするなんていう、話ではないですよね」

「まさかそんなことはありません、会長は私の天職なので、その天職がちょっと」

「商店街のお仕事に、またファッジをお誘いになると困るんです」

「いえいえそんなわけではないのです、恐縮です、電話ではなんなので今から伺います」

**

会長さんは、5分も経たないうちにやってきました。

「先生、恐縮です」

「恐縮はもう結構です、何ですか」

ひょうこ先生はファッジが何かと重宝がられているのを知っていたので、また腕相撲大会の時のような騒ぎになったら大変だと思っています。

「実は、会長の任期が来月で終わりまして、新たに会長を決めることになるんです。それでみなさんは私にやれという事で、お受けしようと考えておりました」

「良いではないですか、それでどうしてうちの子に」

「不動産屋の花札さんが会長をやりたいので立候補するということになったんです。まあ私も会長をしたいということでこれは困ったことに。それで選挙で会長を決めようという話になりまして、ファッジちゃんに協力をと申しますか、甥御さんたちにも応援していただきたいと思うのです」

「花札さんがですか、あの評判の悪い」

「はい、評判は悪いのですが、資金力があります」

「困ったことになりましたね、もちろん私としては会長さんを応援はしますが、あの子達に何ができるのかというと」

「三人は、商店街の人気者です。私を応援していただければそれだけで心強いのです」

会長さんは、頼み込むように言います、ここまで言われると断る理由はありません。

「わかりました、山野辺家が全面的に応援いたします」
ひょうこ先生は言いました。

「ありがとうございます」
会長さんはほっとしたように言いました。

それでも商店街で選挙をするなんて思ってもみなかったことです、今まではみんなで話し合って何となく会長を決めていました。今の会長さんもなんだかんだで十年ぐらい会長をしています。

「それでですね、」
会長さんは続けます。

「私の高校時代の友人で東村山の方で市議会員を務めた奴がいるんです。今は引退しているのですがその男が選挙のことなら協力すると言ってましてね、アイツが言うには若い人を周りに置くことから始めろって言うんです。若い力が新しい未来を切り拓くイメージがあるって言うんですね」

「確かに会長さんから、若いエネルギーは感じられませんね」

「でしよ、花札は私よりも二十歳も若いんです、商売上手で金も持ってるとなると、私のような小さなタワシ屋では太刀打ちできませんよ」

「えっ、会長さんはタワシ屋さんだったのですか」

「ご存知なかったですか」

「知りませんでした、十番にタワシ屋があったと言うことも」

「父親の代から、もう六十年もやってるんですけどね」

**

結局、会長さんに頼まれて三人は、会長選挙に協力することになりました、そして、一週間の選挙運動が始まります。会長さんの元市議会員というお友達は、雄山勘一という人です。代々農業を営む家筋で莫大な土地を持つ地主なのです。

「やっちゃん、俺がきたからには大船に乗った気持ちでいてくれよ。選挙のことなら任せてもらおう雄山勘一です」

やっちゃんとは会長さんのあだ名のようです。

「よろしく頼むよ、勘ちゃん、ところで勘ちゃんはいつもそんな車に乗ってるの」
雄山勘一さんの乗ってきた選挙カーを見て会長さんは驚いて言いました。

「選挙の時に使った車なので手放せなくて、今ではスーパーに買い物に行くにもこれを使ってるんだ。でもやっちゃんの選挙に使えるなら本望だよ」
勘一さんは言いました。

「若い人は集めてあるの」

「うん、三人頼んで協力してもらうよ」

「じゃ、早速車に乗ってもらってよ、窓から手を振ってもらおう、街を一周するぞ」

**

勘一さんが運転して会長と三人が窓から手を振ることになりました。
今日は、土曜の午後でしたので街は比較的賑わっています。変わった形の車に乗った人たちが窓を開けて手を振りながら走っているので、道ゆく人は怪訝そうに見ています。

「なんか変な感じだよ、勘ちゃん」

「確かに変な感じだよな、ちょっと誰かそこにあるマイクで外の人に説明してくれないかい、会長選挙お願いします。タワシ屋の親父ですとか何とか話して」
勘一さんが言いました。

「僕がやるよ」
マイクを手にしてパンプキンがいいました。
【僕の名前はパンプキンです。タワシ屋の親父が会長になりたくて立候補をしました。よろしくお願いします】

「確かにそうには違いないけど、もっと他の言い方ないかな」

今度はサンドリヨンがマイクを持ちました。
【タワシでファッションは洗えません、硬くて痛いし】

「それじゃ、抽象的すぎて選挙的じゃないなぁ」

つぎはファッジです。
【ご町内の皆様、毎度おさがわせのタワシ屋です、会長にはぜひ今の会長さんをお願いします】

「それでは、タワシの行商だよ、それに名前をちゃんと言わないと」

「わたし会長さんの名前知らないもの」

「うーん、今日はここまでだ。ちゃんと垂れ幕を作ってウグイス嬢も連れてくるから。明日まで解散」
勘一さんは、そういいました。

**

次の日、勘一さん選挙カーに乗ってやってきました。中にはウグイス嬢の人も乗っているようです。そして垂れ幕が屋根についていて、大きな字で『やっちゃん』と書いてあります。

「何で『やっちゃん』なんだよ。『やっちゃん』て言ったって誰もわかんないよ」

「俺はやっちゃんの苗字知らないんだよ」

「聞けばいいだろ。それになんでロゴマークがタワシなんだい」

「イメージなんだよ、選挙ってやつは、知り合いのデザイナーに徹夜でつくらせたんだから」

「なんか、いいデザインとは思えないんだよなぁ、毛虫かゴミみたいじやない」

「そんなんことないよ、どうみたってタワシだろ」

二人は、いろいろ言い合っていますが、いよいよ選挙運動に出発することになりました。

拡声器からウグイス嬢の声が流れます。
【商店街の皆さーん、タワシのやっちゃんがご挨拶に参りました。あっ、ご声援ありがとうございます。タ・ワ・シ・タワシでございます。選挙にはタワシとご指名ください】

「どうだい、選挙らしいだろ、さあ窓からみんなで手を振って」

勘一さんは、元気ですが、会長さんは首を傾げています。

【おばあさーん、ありがとうございます。手を振ってくれたお嬢さん、ありがとうございます、タワシ、タワシ、タワシ、会長選挙にはタ・ワ・げっ・うげげげ・ゴッホッホ】

「おい、大丈夫かいウグイスの人」
咳き込むウグイス嬢を心配して会長さんが言いました。

「俺が選挙していた時のウグイス嬢なんだよ、三十年前であの時五十ぐらいだったから、」

「八十かよ、ちょっとウグイスは辛いんじやないか」

「まあしょうがないなよ、今度は街頭演説だ」

選挙カーはきみちゃん公園に止まって、全員が屋根の上のお立ち台に登りました。

襷をかけた会長さんの横に勘一さんが立って、第一声を上げます。
【私、雄山勘一は、やっちゃんを会長に推薦いたします】

【あー、皆さん、私はー、この商店街の未来を見据えて・・・】

【やっちゃんの家内でございます。どうか主人に清き一票を・・・】
突然ウグイス嬢の人が上がってきて隣で演説を始めました。

「おい、どうしちゃったんだ、なんであの人が俺の奥さんなの」

驚く会長さんに勘一さんは小さな声で耳打ちします。
「選挙には妻役の人がいないとダメなんだよ、彼女は選挙のプロだ、任せて大丈夫」

「近所の人びっくりするよ、急に奥さん変わったら」
会長さんは声を落として言いました。

対する選挙相手の花札怒鳴怒氏は、街頭演説も選挙カーも使わず水面下で票の獲得をしようとしていました。豊富な資金力で会員の店主に贈り物や高額商品の購入などして、印象付けます。評判は悪くても金払いがいいと、人の見方が変わってしまいます。

「ひょっとしたらいい人なのかも知れない」と思い始める人も出始めました。

そしていよいよ投票の日が来ました。(後編へつづく)

(南部和也)

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