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21 パンプキン支配人になる(後編)

麻布十番キャット三銃士~第21回

ホテルのドアマンの仕事は、お客様を最初に迎えることです。
いかにお迎えするかがホテルの質を決めると言っても良いほどで、ベテランのドアマンになると常連客の顔を百人以上も覚えていると言います。荷物を持ったり、フロントまでの誘導、帰る人の車の手配など、気を使うことの多い仕事なのです、ネコのパンプキンにそんなふうに気を使うことができるのでしょうか。

パンプキンの働き始めた、ビルトン・ホテル麻布は五つ星ホテルで世界中から要人と呼ばれる人がやってきます。ナショナリティも高く、お客さんの話す言葉もさまざまです。

ホテルの正面玄関には三つの扉があります。一番大きな自動扉と、回転扉、そしてドアマンが開け閉めを行う特別な扉です。同じ場所に三つも扉があるとなるとパンプキンはもう大はしゃぎです。
特に回転扉は見たことがなかったので、中に入って回って出たり入ったりしました。

お客さんが来ると一緒に入って回ってくれるので、子供連れやお年寄りの人には評判が良くて喜ばれたりしますが、お客さんがいないのに一人でクルクル回っている様子は、他のホテル従業員から見ると不思議な光景に見えます。
初めは、一風変わった青年がドアマンになったのかと思っていましたが、その仕草があまりにも自然で、しかも楽しそうなので「ちょっとただ者ではないかも」と噂され始めました。

そのうちに、彼はアメリカの本社から来た超一流のサービス精神を持ったドアマンなのではないかと思うようになりました。そして驚くような語学力があることにも気が付きます。
ホテルに着いたお客様をお迎えするときに「いらっしゃいませ」と声をかけるのですが、パンプキンは自然にお客さんの母国語が出てくるのです。フランスの人なら、「accueillir」イタリアなら「benvenuto」アラビアなら「mrhbaan」覚えたわけでもないのに自然と言葉が出るのです。

このことは、ひょうこ先生もまだ知らないことですが、猫から人間になった三人は猫と同じ思考を持っていますので人間のように言語という認識はありません。つまり会話というものは言葉ではなく心で通じ合うものなので、言葉を使って話している人間の会話を超えたところに意志の疎通手段があったのです。
ですから、本人がただしゃべっているだけで言葉は何ヶ国語にも変わります。

しかもパンプキンは、一緒にドアを出たり入ったりしてくれるので、より親しみを覚えるのです。人が来ない時でも、自動ドアの前に立って開く扉を満足そうに眺めたり、回転扉で楽しそうに回る姿は、人とドアの心が一つとなり一体化しているのではないかと思わせるほどです。
誰ともなくパンプキンを「リアル・ドアマン」「メリーゴーアラウンド・マン」と呼ぶ人も現れるようになりました。

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そんなある日事件が起きます。
若い女性のお客さんが車を降りてホテルにやってきました、パンプキンは子供達と回転扉で回っているところでした。若い女性は、ドアマンにドアを開けてもらい、何か一言二言言葉を交わします。ロービーに入ると数人の従業員が寄ってきました。

同時に、扉を開けて外から初老の紳士が入ってきました。紳士が若い女性の後をついて行くように歩き始めた時、パンプキンが紳士に強烈なタックルをしました。紳士は、吹っ飛び受付のカウンターまで飛んで行きました。

周りの人はびっくりして紳士にかけよります、パンプキンは自分でも何をしたんだろうと言うように立ち尽くしています。
起き上がる紳士の背広から拳銃が落ちました。一同は驚いて、あたりは大騒ぎとなり警備員が駆けつけました。
紳士は取り押さえられ、警察の車が何台も来てホテルのロビーは一時封鎖になります。

これは後で分かったことですが、お客の若い女性はビルトンホテルのオーナであるビルトン一族の一人でした。そして、紳士はビルトン一族に対抗する国際運動団体でこの女性を拉致して、身代金を一族に払わせようと計画していたのです。

さて、そのような国際的な社会情勢もまるで分からないパンプキンはただ猫の本能で若い女性に危険が迫っていることを感じて反射的に行動に出たのです。それでも警察の取り調べに呼ばれたりして、仕事を休むことになりました。

事件のことを知らないひょうこ先生は、仕事に行かないパンプキンを見て、すっかり首になってしまったのだと思っていて、毎日優しく世話をしました。

「マム、なんで毎日レバーのしゃぶしゃぶを食べさせてくれるの」

「パンちゃんが元気に成るようにしてるだけよ」

ひょうこ先生は、首になってがっかりしているパンプキンに、同情しながらも少し安心していたのです。

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次の日、右脳マダムとホテルの人が病院にやってきました。
ひょうこ先生は、何かやらかしてパンプキンが首になったので叱られると思って小さくなっていたのですが、ホテルの人はこう言いました。

「パンプキン様のおかげで、私どものホテルは救われました。本部からは、バンプキン様をドアボーイから支配人に格上げするという辞令が下りてまいりました」

「支配人ですって」

ひょうこ先生は素っ頓狂な声をあげました。

「その通りでございます、明日より出勤していただきたいと思います」

パンプキンはホテルの支配人になってしまいました。
でも、本人はドアが好きなだけで出世しようとなんて思っていたわけではありません。支配人室も最上階に用意されましたが、ドアのそばにいたいという理由で断ってしまいました。その代わり、回転扉の中の一つの区切りを支配人室にして椅子と机を置いています。

もちろんこれは支配人命令としてです。

(南部和也)

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