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13 猫とハイヒールでピアノコンサート(後編)

麻布十番キャット三銃士~第13回

美里丸さんは三匹の猫と暮らしています。そして彼女はコンサートにはいつも猫たちを連れてゆくのです。インスタグラムにその様子をあげているのでファンの人はピコタン、ユウタン、ルブタンの三匹のこともよく知っていました。
ファッジは猫たちにコンサートを手伝ってもらおうと考えていたのです。

美里丸さんの家はグランドピアノと猫のためにあると言ってもよいほどの造りで、とても凝っています。家の真ん中にあるピアノ室で、ピアノを弾いている間、猫たちはいつもその音色を聞くことができます。

「足を痛めた美里丸さんがペダルを踏むことはできないと思いますが、ペダルの上に足だけ置いてください。私がそのタイミングを覚えます」
ファッジはそう言って、グランドピアノの下に潜り込みました。

美里丸さんが「三匹の猫」を弾く時にどのペダルをどのタイミングで踏んでいるのかじっと見て観察しました。コンサート当日にファッジがペダルを踏むわけにはいきませんが、猫たちならピアノの下に潜り込んでいても、不自然には見えないでしょう。そして演奏中に三匹の猫たちにファッジが合図を送り、それぞれの猫がペダルを踏めばうまくゆくと思ったのです。

人間の姿はしていても、ファッジも猫なので猫同士意思は通じます。三匹も勿論協力することになり、後は本番を迎えるだけとなりました。

 *

本番当日、コンサートの会場でファッジは、ペダルを踏むタイミングのおさらいしていました。
猫が音楽を聴くのは意外かもしれませんが、音を解する能力は実は人間よりも高いのです。ただ、音が連続する曲となると猫にはなかなか理解ができるものではありません。ファッジは猫の聴力を最大限に発揮して「三匹の猫」を音として記憶し、同時にペダルのタイミングを目に焼き付けていたのです。

美里丸さんの演奏が始まります。
三匹の猫たちはそれぞれのペダルの上に乗っています。
ファッジはピアノの反対側に陣取って目で三匹に合図を送ります。
合図に合わせて、三匹は一生懸命ペダルを踏むのでした。

演奏が終わるとお客さんは大喝采で拍手をしています。
美里丸さんは三匹の猫をピアノの下から抱き上げて頬ずりをしました。

右脳先生が拍手をしながら近寄って言いました。
「三匹の猫が完璧に役割を果たしたのですね」

「いいえ先生、ペダルのタイミングはまるで合っていませんでしたし、ちゃんとペダルも踏めてはいなかったのです。でも、この子達は本当に頑張ってくれました。私は技術的に完璧な演奏よりも、もっと大切なことがあることに気がつきました。それは愛情に満ちた演奏です。今の演奏は私の人生で一番素晴らしいものでした」

確かにファッジがいくら頑張ったとはいえ、ペダルのタイミングはとても付け焼き刃ではわかるものではありませ。それにペダルを踏む力を出すことは、小さな猫にはとても難しかったのです。

「全くその通りですね、愛は全てを包み込むのです」
右脳先生が集まった商店街の人たちに向かって言いました。

「愛にあふれる商店街にしましょう」
会長が目頭を押さえて言いました。

「何でここで、商店街の話になっちゃうんだろう」
みんなはそう思いましたが、口には出せませんでした。

「皆さんが素人で本当に良かったです、技術的に完璧でないことがわからないほどの、愛にあふれた本物の素人」
美里丸さんも目にいっぱいの涙を溜めて言いました。

「いつの間に、自分たちが素人だと認定されたんだろう。しかも本物ってどういう事」
みんなは拍手をしながらも、納得のいくような納得のいかないような不思議な気持ちになっていました。

思ったことをすぐ口にしてしまう会長と、嘘がつけないピアニストが言う事だし、その辺はザックリ諸々考慮しようと思いました。とにかく、いろいろあっても商店街にはピアノの音色と愛が溢れることでしょう。

(南部和也)

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