カウンセラーになりたい企画

EAP相談で修正した認知の歪み

前回は25年以上も前の、カウンセリングを受けようとしない男性側の事情について書きました。

では現代はどのような状況なのでしょうか。私の所属しているEAP会社には男女に関係なく電話相談や面談予約の依頼がきます。EAP(Employee Assistance Program)とは「従業員支援プログラム」の略で、メンタルヘルス不調の従業員を支援するプログラムをいいます。

EAP事業を請け負う会社が、まず顧客企業の本社と契約をします。支社や子会社を含めた全国に広がる企業のネットワーク先へ、サービス内容が告知されます。従業員とそのご家族に困りごとが発生すると、いつでも無料でサービスを受けることができるのです。

例えば電話やオンラインによる相談を実施したり、直接お会いして面談をする場合もあります。私は二拠点生活をしているので、東京に滞在している折りには本社にて相談を受けます。札幌にいる時には北海道エリアを担当していますので、どちらかの支社・支店で「人間関係がつらい」「夫とうまくいかない」「新しい上司の方向性についていけない」などの問題が起きると、迅速に対応するわけです。

「適応障害」と診断された男性からの相談

ある日、こういう相談がありました。
クリニックから「適応障害」と診断された。そのため、現在は休職中であるが数か月すると職場復帰をする。それまでに自分に起きたできごとを整理したい──。という内容です。

もう少し詳しくお話しします。
入社7年目の彼は営業部に所属していました。営業部は「人と接するのが好きだから」という理由で、希望して配属してもらった部署です。業務にも慣れた頃、慢心からかお客様と大きなトラブルになりました。お客様が消費者センターに訴えたため、そちらからも確認の電話が来ます。彼は、これ以上会社に迷惑をかけるようなら退職しようかと迷います。その頃から、朝起きるのが苦痛になりました。めまいや吐き気が治まらず微熱も下がりません。とうとうベッドから起き上がれなくなったため、妻の勧めにより心療内科を受診しました。

彼の課題はここからでした。通常であれば「適応障害」ですから、一定期間ストレスの原因となったものから距離をおけば、処方された薬や「日にち薬」が効いて快復していきます。しかし、彼の場合は一向に病状が安定しませんでした。カウンセリングに来られてわかったのは、彼の治らない原因が「ネガティブ思考」にあることでした。行動する前からネガティブな結末を予想して、「どうせできっこない」「またこうなるに決まっている」と自ら結論づけます。その結果、「行動しない」という選択を、彼はずっと繰り返しているのです。

会社は彼に営業部へ戻ってきてほしいと願っているのに、彼には自信がありません。同じようなクレームが起こり、会社にまた損害を与えるに違いない、それならば別の部署へ異動したいと言うべきか、でも希望地には営業職以外の仕事はないし、どうしよう‥ぐるぐると考えが巡ります。

ネガティブ思考と結論への飛躍が引き起こす「認知の歪み」

私は、ここに至った状況を整理して伝えました。次に、彼が決めなくてはいけないことを明確にしました。そして、決断するために障害となっていることを尋ねました。私のこのプロセスは、カウンセラーが鏡であることを表しています。渦中にいると、自分に起こった一連のできごとを把握するのは難しいため、カウンセラーがフィードバックしていきます。

彼は、自分の認知の歪みに気づいていました。認知とは、ものごとの受けとめ方や考え方をいいます。1976年に心理学者のアーロン・ベックが基本的な理論を提唱し、デビッド・バーンズが、さらにケースに応じたさまざまな「認知の歪み」の例を挙げていきました。このクライエントさんの場合は、「ポジティブ要素の否定(ネガティブ思考)」と、すぐに結論を決めつける「結論への飛躍」が見られました。これらの思考パターンは、中学生の時にいじめを受けたことに由来していました。彼のカウンセリングは、認知行動療法を用いながら定期的に1年続き、無事にこのたび営業部に復帰することになりました。

これからの長い人生を思えば、ほんの一瞬立ち止まって自分を棚卸しするのはとても大切なことなのです。

(神田裕子)

パートナーが発達障害かも?と思ったときに読む本

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