カウンセラーになりたい企画

カウンセリングと人生相談の違いについて

身の上相談とカウンセリングは根本的に違う

そもそも、カウンセリングとは何か。

よくアドバイスをしてもらえると思っている人がいますが、おそらくそれは「身上相談」をイメージしているのでしょう。身上相談とは、人生経験の豊富な人が、人生で得た個人的価値観に基づいてお悩み相談をすることをいいます。カウンセリングは、本来心理学の専門的知識の裏付けがあり、なおかつカウンセリングのスキルを身につけた人が、クライエントの話を積極的に傾聴しながら気づきを促す仕事です。

身上相談と異なる点は「アドバイスで人は変わらない」という考え方が基本にあることです。ですから、カウンセラーは原則アドバイスはいたしません。心理教育と呼ばれる形で、心理学や疾病等の情報提供をすることはあります。何かある度にカウンセラーのところへやって来て指示を仰ぐなら、自分で考えて実行する機会は奪われます。カウンセラーは儲かりますが(笑)それはしてはいけないことです。依存をさせずに、いつかクライエントがカウンセリングに来なくなることを目指す仕事です。

人間は、人生において常に意思決定を繰り返しています。主役は自分自身ですから、一見すると運命に翻弄されているように見えたとしても、実はその人が描いている脚本に沿っているわけです。たとえば、「ひどい親に育てられた」という境遇は同じであっても、それをばねにしてより良い人生を築く人と、不幸を親のせいにして恨みを抱えたままネガティブに生きる人の差はここにあります。考え方しだいで、いくらでも脚本を変更しながら、楽しい人生を送ることができます。

自己治癒力を引き出すのがカウンセラーの仕事

身体に自己治癒力があるのと同様に、心にもそうした働き―「自己決定能力」や「自己解決能力」-があります。それによって本当なら人生を謳歌しているところでしょう。でも、育ってきた家庭環境や生い立ち、いくつかのトラブルがいっぺんに押し寄せてきたため混乱しているため、クライエントは力を発揮できない状態にあります。

状況を整理して「自己治癒力」を引き出すのが、カウンセラーの仕事です。最終ゴールの「行動変容」を共同作業によって目指し、カウンセラーとクライエントが会話を繰り返すプロセスをカウンセリングというのです。カウンセリングを受ける効用・効果として、①カタルシスを得る(話してすっきりする)②気づきを得る(気づいたら人間は変わることができる)③自我が育つ(専門用語としての「自我」とは、欲求や希望と現実との折り合いをつける役割の心の一部分であり、判断や決定をする自分のこと)が挙げられます。

保険のきかない高価なお金を支払ってでもカウンセリングを受けるのは、こうした3つを得るためです。カウンセラーは、どの療法を使用すると問題解決の方向に向かうのか、先の見通しを立てられるようではないと務まりません。積極的傾聴法とは別に、広く深い専門的知識とカウンセラー自身の心の安定、そして誰に対しても開かれている自分自身を育成する必要があります。

カウンセラーに必要なのは継続した学び

そんなカウンセラーに必要な「クライエントの成長を助ける態度」として、アメリカの臨床心理学者カール・ロジャース(1902-1987)は次の3つを挙げています。
①純粋性(カウンセラーの自己一致)
②無条件の肯定的関心(完全なる受容)
③共感的理解(ありのままの理解を伝えるまで)

カウンセラーにも資質は必要です。「誰かの役に立ちたい」「人の話を聴くのが好きだから」だけでは、カウンセリングは難しいでしょう。30年以上カウンセリングを続けていても、毎回新しい発見があります。クライエントから学ばせていただくとともに、向上心のないカウンセラーは続かないという言葉のとおりに、継続的な学びが必須であることは確かです。

私のカウンセリング対象は、個人ばかりではありません。企業において組織の人間関係やトラブル、仕事に影響を与えるプライベートな悩みを聴く産業カウンセラーとしても活動しています。扱った問題は、上司と部下のコミュニケーションがスムーズではないことから起こる職場の問題やハラスメント、発達障害やパーソナリティ障害のある社員への対応などさまざま。果ては‥女性社員への社長の態度が発端となって起きた組織の腐敗を調整したこともあります。育児と仕事の両立に悩む女性社員から話を聴いた結果、組織に働きかけて託児所設置を実現したケースもあります。こんなふうに組織内で起きる課題の調整役に徹しますので、目の前のクライエントを受容する個人カウンセラーとは少し仕事の性質は異なるように感じます。

(神田裕子)

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