25 大事件発生、麻布十番が乗っ取られる(後編)
場面は変わって、ひょうこ先生の病院です、アフリカにいるはずの兵庫から電話がありました。
「ただいま、いま成田だよ。これから戻るね」
「びっくり、急に何よ、どこに行ってたの?」
「詳しいことは電話では話せないんだ。商店街に危機が押し寄せてる、だから戻ってきたんだよ」
兵庫のいうことは、まるで意味がわかりません。電話を切ると、病院の前に厳つい車が止まりました。降りてきたのは、クレメント大佐です。
「ひょうごさんは・いますか」入ってくるなりひょうこ先生にききます。
「成田空港から、こちらに向かっているそうです」
「ここでまちます・おちゃのみます」
ひょうこ先生は、話の急展開に目を白黒させました。
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一時間ほどで兵庫が帰ってきました。クレメント大佐は握手をして自己紹介をしました。
「We aer already working with CIA.and the U.S.military is involved in the operation.」
「I`m a temporary employee,so I don`t have any authority,but I`ll spare no effort if it`s for world peace」
「ちょっと待って、何言ってるのかよくわからないけど、CIAとか、オペレーションとか、世界平和とか、あなた達何しようとしてるの」
「説明するよ、大佐の特殊チームと僕がある作戦をする事になったんだ。僕はCIAのエージエントとして参加するんだ」
「あなたいつから、CIAになったのよ」
「旅行中にスカウトされたんだ」
「どこでよ」
「ディズニーランドで」
「そんなの信じられないに決まってるでしょ」
「信じるも信じないも、君にも協力してもらわないと困るんだけど」
「けんかはやめてください。おちゃのんでください」
「喧嘩じゃないです、お茶は私が入れたんです」
ひょうこ先生は、理解できない情報が多すぎて頭がパンク寸前です。
「私にできることなんて、ありません」
「ファッジとパンプキン、サンドリヨンのコーポレイションがないと、このミッションは成り立たないんだ。だから彼らのスーパーバイザーとしてどうしても君がニードなんだよ」
「あなた、外国帰り丸出しの話し方やめて、つまり三人の保護者として働けということね」
「You are right.そういうことです。おちゃはおいしいことです」
「大佐、日本語わかるならここでは日本語で話してください。実は三人は人間じゃないんです、猫だったんですが人間になっちゃって、それで二人はいま猫に戻っちゃってまして・・・。こんなこと信じられます」
ひょうこ先生は、二人の顔を繁々と見て話しますがどうも自信がありません。いままでに起きたことを信じてもらえるのか不安です。
「大佐も僕も、三人が猫だっていうことは、もうわかっているよ、どうして人間になってしまったかはわからないけどね。大切なことは猫の能力と思考を持ったままの人間がいるということなんだよ。ある意味彼らはミュータントで特殊能力を備えている。だから世界のために役に立つと思っているんだ」
兵庫さんは、説明しました。
「猫に戻っちゃった、パンプキンとサンドリヨンはどうしよう。また人間になることができるのかしら」
「かれらを・にんげんのすがたにもどすためには・にんげんになったときと・おなじことをします」
大佐は冷静に言いました。
「ただいま」
そのときファッジが帰ってきました。
ファッジは、大佐が病院にいるのを見ると、何かただならぬ事が起きていると、猫の勘で感じました。
兵庫さんはファッジを見ると嬉しそうに言いました。
「ファッジだね、久しぶり、パパだよ、元気だった」
「誰?」
ファッジはそっけなく言いました。
「あなたが家を空けて、もう一年以上経つのよ。ファッジもまだ小さかったし忘れてしまったんじやないの、ねぇファッちゃん」
ひょうこ先生は、言いました。
「私この頃、猫の時の記憶がなくなっているような気がするの。パパのことも覚えているような覚えていないような」
ファッジは、困ったように言いました。
「じゃあ、ファッジその記憶がなくならない前に教えて欲しい。君たち三人が人間に姿が変わった時のことを思い出して、何をしたのかな、どこに居た?」
兵庫さんは脳科学者のように質問しました。
「朝起きて、パンちゃんがどこかの引き出し開けたような気がします、そしたら何か出してきて、みんなで匂いを嗅いだらいつの間にか今の姿に」
ファッジは答えました。
「どの引き出しだろう、彪子(あやこ)、君わかるかい」
「そう言えばひょっとして、あなたアフリカから変なもの送ってきたことがあったでしょう」
「変なものなんて送らないよ、あれは貴重なマタタビの実なんだよ。捨てちゃったりしてないだろうね」
「貴重なものなら、何かメモの一つでも入れておいてよ。なんだかわからないから引き出しに入れて・・・」
「その引き出しだよ。どこの引き出しだい?」
「うーん、忘れた」
「思い出して、世界を救うんだ」
兵庫さんがひょうこ先生を励まします。
「確か診察室の薬の引き出し・・・かな」
二人は診察室に行くと、薬の入った引き出しを片っ端から開けて調べました。
「ないよ、本当に薬棚なのかい」
「自信ない」
台所の方でクレメント大佐が呼んでいます。
「これ・では・ないですか?」
大佐は台所の引き出しから梅干しの包みを出して言いました。
「それは梅干しです、勝手に開けないでください」
「でも・かたいよ」
引き出しの奥から出てきたのは、乾燥した何かの実です。
「これだよ、これがゴロンゴロンだ」
兵庫さんは、大きな声で言いました。
「ファッジ、この匂いを嗅いだんだね」
山野辺兵庫はゴロンゴロンの実をファッジにかがせると確かめるように言いました。
「そうですこの匂い、何かしなくちやならない気持ちにさせる匂い」
「よし、それでは二匹にこれを嗅がせるぞ、人間になればゴロンゴロンの力を証明できる」
ひょうこ先生はパンプキンと、サンドリヨンを連れてくると、匂いを嗅がせました。二匹は熱心に匂いを嗅いでいます、そのうちにひょうこ先生の方が急に眠くなり意識が遠くなってゆきます。
しばらくすると、ひょうこ先生はパンプキンの声で目を覚ましました。
「マム、僕だよどうして寝てるの、お腹すいちゃった」
ひょうこ先生が飛び起きると、人間の姿になったバンプキンとサンドリヨンが立っています。
「あなたたちまた人間になっちゃったのね」
ひょうこ先生は複雑な表情で言いました。
兵庫さんと大佐が目を覚ましました。
「全員が揃ったね。これで合同作戦が始められる。大佐、作戦のコードネームはなんですか」
兵庫さんがクレメント大佐に聞きました。
「The codename is Eva(エヴァだ)」
クレメント大佐は字幕付きで答えました。
麻布十番キャット三銃士第一部 終わり
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山野辺兵庫の解説 三匹の猫たちが、ゴロンゴロンというマタタビの匂いで、人間に変わりましたが、猫に戻ったのも山椒とワサビの匂いのおかげなのです。 サンドリヨンが、茹でた小豆の匂いを好んだというお話があったけれども、植物の持つアヘンアルカロイドには脳に特別な作用を引き起こす作用があることが知られています。 ゴロンゴロンの持つ作用は、面倒臭い事でも引き受けてしまうという特別なもので、猫が面倒臭い事でもやりましょうという気持ちになるとそれは人間なのかという哲学的な意味を持つことにもなります。人間は地球上の動物の中で最も優れていたので文明を持ったとされていますが、実は面倒を嫌がらないことで文明を築いたのではないかという仮説が立てられます。人間が及ぼす数々のトラブルは、ほとんどが動物的には面倒な事柄で犯罪も戦争もそれに当たります。人類がどの時点でゴロンゴロンのにおいを嗅ぎ、面倒くささを克服したのかはわかりませんが、私たちが面倒臭いことをもう一度拒否すれば世界に平和がおとづれるのではないでしょうか。 面倒なので戦争はやめましょう。