企画麻布十番キャット三銃士

08 パンプキン砂子ちゃんと会う(後編)

麻布十番キャット三銃士~第8回

夜になると次々とお客さんがやってきます。パンプキンは、自分が扉を開けて出たり入ったりして、まるでお客を調べたりしていません。そのうちに本当に誰が見てもひどい、これは揉め事の塊のような人がお客としてやってきました。
砂子ちゃんはパンプキンに目配せして、その人を入れないように伝えました。パンプキンはそのお客の前に立つと言いました。

「揉め事はお断りだ、素直に帰ってくれよ」

「何だと、いつ俺が揉めたって言うんだ。適当なこと言うとはっ倒すぞ」

お客は凄みますがパンプキンは少しも怯みません。それどころかポケットからメモを取り出すと、読み始めました。このメモはファッジが書いたもので、何かあったら読むように言って渡したのです。

「お前蛆虫野郎。俺の名前はパンプキン。泣く子も黙るパンプキン。お前の母さん出臍。俺の母さんも出臍」

ガラの悪いお客は、店の入り口でこんなに悪口を言われたことはなかったので、怒る事を通り越して調子が狂ってしまい、変なことを口走り出しました。

「お前こそ、蝿やろう。俺の名前はひろしです。泣く子はいないかナマハゲです。お前の母さんたつ子です。俺の母さんすじ子です」

「わぁ、何だかラップバトルみたい」
砂子ちゃんが言いました。

パンプキンはまた新しいメモを取り出して読みます。
「弱虫毛虫は花粉症。お前アレルギー、俺はデモクラシー、暮らしは苦しい昭和の時代」

人が集まってきて二人を取り囲み始めました。ラップのリズムに乗ってパンプキンは次々とメモを読みます。
「お前の爪、役立たずな爪、お前の肉球、臭い肉球、家に帰りな、オッパイ飲みな、お前の乳首は上から二番目の左」

「テメェ、舐めんなよ」

ガラの悪いお客はパンプキンの顔を殴ろうとしましたが、パンプキンはヒョイと避けて、素早く猫パンチをお見舞いしました。そして、怯んだ客の首を掴むと、一回転してボーンと投げ飛ばしてしまいました。

  *

そのあとは、パトカーが来たり救急車が来たりの大騒ぎになります。
砂子ちゃんが電話して右脳先生やひょうこ先生も駆けつけました。

「パンプ、いつも言ってるでしょ。自分より小さい人を、ファッジみたいに投げ飛ばしたらダメなんだから」
ひょうこ先生は怒っています。

「実は僕がパンプキン君にこの店の仕事を紹介したために、この騒ぎになったようで。申し訳なく思います」
右脳先生はひょうこ先生に謝りました。

「あら、こんなところで。右脳先生どういうことなんでしょう。うちのパンプキンをご存知だったのですね」

「ひょうこ先生のご親戚とは知りませんでした。うちの砂子君がパンプキン君にはお世話になって。それでまあ色々と」
右脳先生も口をもごもごとさせました。

ローズ薔薇太郎がひょうこ先生と右脳先生をお店に案内しながら言いました。
「パンプキンさんが投げ飛ばしたあの男は警察も目をつけていた札付きの悪漢で、周りの店でも問題を起こしていたようです。あれだけ飛ばされたのですからもう暫くは病院から出てくることもないでしょう。パンプキンさんには感謝したいぐらいです」

そう言ってひょうこ先生に薔薇の花を手渡しました。

「ひょうこ先生にご紹介しましょう。この人はクラブローズの店長ローズ薔薇太郎氏です。彼は私の友人の一人であり六本木夜の街の会長です」

「私も六本木の夜なんて知りませんでしたので、失礼いたしました」

「とんでもありません、さあ店の中へ。右脳先生の絵も店内にはたくさんありますよ」

「はぁ、そうなんですね」
ひょうこ先生は、恐る恐るお店に入って行きました。

  *

お店の中は暗く、壁には右脳アキラの絵がスポットライトに照らし出されるように配置して飾ってあります。音楽が騒々しく流れて、ひょうこ先生には似つかない場所だと感じました。

「さあ何をお飲みになりますか、先生たち、とっておきのワインもウイスキーもあります」

「僕は飲めませんので、コーヒーをお願いします」
右脳先生は言いました。

「私も、アルコールは消毒薬という感じで、右脳先生と同じコーヒーにします」
ひょうこ先生は、落ち着かない様子で店のあちらこちらを見ながら言いました。店には右脳アキラのちょっとエロティズムな絵が並んでいて、一緒に並べてあるオブジェは国籍も年代もわからないちょっと不気味なものばかりでした。

「右脳先生の絵もよくご覧になってください、私のコレクションです」

「なんか、見たことのない感じの絵なもので、女の子とか猫ではないんですね」

「僕はたまに、こういった絵を描いてみたくなるんですね。それでいつも売れないだろうと思いながら個展に出すのだけれど、薔薇太郎さんが買ってくれるんです」

「私は右脳先生のそう言った面に興味がありましてね」

薔薇太郎が、不気味に笑うのでひょうこ先生はコーヒーを、すぐにでも飲んでお店を出ようとしました。

「あっちちち」
運ばれてきたコーヒーにすぐに口をつけたひょうこ先生は、服にコーヒーをこぼしてしまいました。

「どうぞこれでお洋服をお拭きください」
ローズ薔薇太郎は紫のハンカチを取り出すとひょうこ先生に渡します。

「ありがとうございます、でもなんだか高そうなハンカチ、いいんですか」

「シルクです、薔薇にはシルクのしなやかさが合うのです」

「確かにそうかもしれませんね、そろそろお暇を、パンプキンはどうしているのかしら」

「パンプキンさんはもう少し警察に事情を聞かれると思います。でもご心配は要りません、六本木の夜に起きた出来事なら、薔薇太郎にお任せください」

ひょうこ先生は、この人には絶対パンプキンはお任せできないと思いました。

「少し音楽を変えましょう、ひょうこ先生はダンスはお好きですか、せっかくこの店にいらっしゃったのです私と踊りませんか」

「えっ、ダンスですか。ダンスはちょっと、出来ないというか、しないというか」
ひょうこ先生はしどろもどろに答えました。

「薔薇太郎さん、あれだけの事件が起きた後だし、ひょうこ先生も着の身着のままで飛び出して来られたようなので、今日はこの辺にしてまた日を改めてお誘いすればいいのではないかな」
困っている様子のひょうこ先生を助けるように、右脳先生は言いました。

「六本木の夜を知りたければいつでもまたおいでください」
薔薇太郎は、ひょうこ先生の手をとるとキスをして言いました。

「あっ、このハンカチありがとうございました」

薔薇太郎にハンカチを返そうとするひょうこ先生に、薔薇太郎は言います。
「ハンカチはお持ちになって、次に来られたときにお返しください、お約束ですよ」

その時、パンプキンの声がしました。
「マム、僕ね、いいことしたんだって」

「誰がそんなこと言ったの」

「警察」

「本当かしら、人を投げ飛ばしたんでしょ」

「整頓膀胱なんだって」

「なんで病気なの」

「違います正当防衛が認められたんです」
横から砂子ちゃんが言いました。

「じゃ帰ってもいいのね、よかった、早く帰りましょう」
ひょうこ先生はパンプキンを連れて逃げるように店を出ました。

ローズ薔薇太郎は右脳先生の顔を見てウインクをすると、深紅のハンカチを出して振るのでした。

(南部和也)

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