07 パンプキン砂子ちゃんと会う(前編)
麻布十番キャット三銃士~第7回
扉を開けるのが大好きなパンプキンは、今日もお店に入っては何もしないで出てゆくという仕草を繰り返していました。ほとんどのお店は自動扉なのですが、中には昔のように手で開けたり閉めたりするお店もあります。パンプキンはそんなお店の引き戸を開けるのが大好きです。
猫なので開けるのだけが好きで、決して閉めたりしません。ですからパンプキンの入ったお店はいつも扉が開けっぱなしなのです。
古いお煎餅屋さんの前を通りがかったパンプキンは、引き戸を見つけると早速開けて入ってゆきました。お店のおばさんが若い女の人と話をしていました。
「右脳先生の事務所に二十箱のお届けですね、ちょっとうちの人が出ているので夕方のお届けになってしまうけど、いいかしら」
「そうなんですか、困りました。お昼過ぎには絵と一緒に発送しなくちゃいけないんです。私一人では持っていけないし、本当に困ってしまったわ」
女の子は言いました。
「僕が持って行くよ」
後ろに立っていたパンプキンが突然話に入ってきたので、二人は驚いて振り向きました。
「あらいらっしゃい。お客さんが持って行くって、どういう事なの」
「僕の名前はパンプキンです。人を助けてあげることはいい事だから、ちゃんとしなさいとマムに言われているんだよ。だから持ってあげます」
「パンプキンさん、それはどうもありがとう。持っていただければ本当に助かります。私は右脳アキラ事務所のアシスタントをしている砂子と言います」
「僕は、動物病院のパンプキンで、ファッジとサンちゃんと一緒にアメリカから来た甥ということにしなさいとマムに言われています」
「えっ、なんだかよくわからないけど、あなた力も強そうだしお願いしちゃおうかしら。
ね、砂子ちゃん頼んじゃいなよ」
お煎餅屋のおばさんも、ニコニコ顔のパンプキンに安心したようです。
*
パンプキンはお煎餅の箱を二十も持って砂子ちゃんの後について歩いてゆきます。
「パンプキンさん、一度にそんなに持って大丈夫ですか」
積み上げられた箱の高さは二メートルほどにもなって、通りをゆく人が驚いて見ています。倒れそうでも倒れない絶妙のバランス感覚で、パンプキンはおせんべいを運びます。街を行く人の中には何かのパフォーマンスだと思って写真を撮る人も出る騒ぎです。
10分ほど歩くと事務所につきました。
「ヤァ、おかえり砂子ちゃん。この軽業師のような青年はお友達ですか」
右脳アキラがパンプキンを見て言いました。
「お煎餅屋さんでお会いしたパンプキンさんです。運んでもらいました」
「僕は動物病院のパンプキンです。お煎餅は食べませんが、お店の扉は大好きです」
「そうですか、僕はイラストレーターの右脳アキラと言います。右脳と左脳の扉を開きっぱなしにしています。今日は手伝ってくれてありがとう」
右脳先生は丁寧に挨拶をしました。
「パンプキン君はデザイナーなの」
「デザイナーは、まだ食べた事がないのですね、焼き鳥は好きです」
「いやいや、砂子ちゃんの友達だから、てっきりデザイナーかと思っちゃったんだけど、勘違いでした。飲食の人だったんだね」
「飲食は好きですが、お酒は飲みたくないしご飯も食べないです。飲むならミルクですね」
「では、仕事は動物病院ですか」
「仕事はしてないです」
「してないんですか」
「はい、猫だったので」
「はっはっ、これは愉快な青年だ」右脳アキラは楽しそうに笑いました。
「パンプキン君、もし君が仕事を探しているのなら、六本木で店をやっている僕の知り合いが人を探しているので紹介しましょう。扉のまえでお客が行ったり来たりするのを見守るだけの仕事らしいので、君にはぴったりだと思うけど」
「仕事をしてみたいと思っていました。やります」
パンプキンは、元気に答えました。
*
次の日の夕方、パンプキンと砂子ちゃんは六本木にあるクラブ・ローズという店に向かって歩いていました。右脳アキラがパンプキンに紹介した仕事はクラブの入り口でやって来るお客を調べる仕事だったのです。少し危険で、何か起きそうな予感がします。
「パンプキン君、君の仕事はお客さんの姿や仕草から、揉め事を起こしそうな人を店に入れないようにすることなんです、大丈夫ですか」
店長のローズ薔薇太郎は長いまつ毛をパタパタさせて言いました。
「揉め事は、飲んだことがありませんがミルクは大好きです」
「それでは揉め事も一緒に飲み干していただきましょう」
「薔薇太郎さん、誰を入れて誰を入れないか判断するのはパンプキンさんには難しいのではないでしょうか」
砂子ちゃんは心配そうに言いました。
「調べると言っても、調べ切れるものではありません、素直に調べさせてくれるお客さんなら入れても大丈夫ですが、文句をつける人は入れちゃダメなんです」
薔薇太郎はそういうとさっさと店の中に入ってしまいました。
「パンプキンさん、どうしたらいいのか分かりますか」
「僕は入りたい時には素直に入りたいと思うから、素直でない揉め事は飲まない方がいいと思います」
「ローズ薔薇太郎さんは、右脳先生のファンで絵もたくさん買ってくれている人なので、先生も頼まれると断れなかったんだと思います。でも何も知らないパンプキンさんにこんな仕事紹介するのもひどいですよね」
「仕事をするのは初めてなので、素直でない揉め事がなんなのかは知りません」
まるで仕事の内容を分かっていないパンプキンの様子を見て、責任を感じた砂子ちゃんは一緒に隣で見守ることにしました。(後編へつづく)
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