05 食べ物、読み物、登る物 見るもの全てが初体験
麻布十番キャット三銃士~第5回
「僕は、生の鶏肉が食べたいなぁ」
「私は、照り焼きが良かった」
「パンちゃん、鶏肉は生だとサルモネラ菌が心配だから火を通したものにしなさいとマムが言ってた。それから照り焼きは、食べ過ぎると塩分と糖分が心配よ」
しっかり者のファッジが二人を制します。
「いい匂いがしてくる」
三人が匂いに釣られてあるお店に入りました。
そこは焼き鳥屋さんでした。
「いらっしゃい、三人様ですね」
席に通された三人は辺りを見回します、サンドリヨンはすぐに鶏肉が串に刺して並んでいるのを見つけました。
「お肉をください」
「何を何本焼きましょうか」
「何を何本?」
パンプキンがおうむ返しに聞きました。
「外国の方ですね、焼き鳥には種類があって、肉と皮、砂肝やレバー、鶏肉のハンバーグみたいなつくねも美味しいですよ。タレと塩で選んでいただけます」
「照り焼きではないんですか」
「アメリカでも照り焼きは人気だと思いますが、焼き鳥は少し違います。一口ずつ食べられるように、小さく切って竹の串に刺してあります、それを炭火で焼くのです」
「パンちゃん、これはきっと私たち食べたことないものだと思うよ、マムの作ってくれるのは煮たやつだもの」
「匂いがいいよね」
ファッジが壁に書いてあるお品書きを見ながら言いました。
「それでは、すべての種類を三本づつお願いします。みんなタレで」
三人はたらふく焼き鳥を食べて店を出ました。
「マムからもらったお金でも足りないなんて信じられない」
「ちょっと頼みすぎたと思うの、三人合わせても三千円だから、六十本食べたら足りなくなるのはちゃんとわかっていたわよ」
「お金が足りなくてもよかったの?」
「マムのスマホを持ってきたから電子マネー決済をしたの、だから大丈夫よ」
「よかったね、天使マネー」
「天使じゃなくて電子よ、パンちゃん」
次に三人が向かったのは本屋さんでした。
「これはどういう食べ物なんだろう」
「食べにくいと思うけど」
「本は食べ物じゃなくて、読み物なのよ」
「よくわからないよ」
「ここに書いてあるのは字というもので、読むといろんな意味がわかるものなの」
「読み物はつまらないよ」
「私は好きよ、色々なことがわかるのって楽しいもの」
ファッジは丸い目をもっと丸くして言いました。
「私は、ファッションというのが知りたいなぁ。人間って色々な服を着るでしょ。これって面白いかも」
サンドリヨンは、ファッション雑誌を次々と手に取ると目を輝かせています。
「私ファッションが照り焼きと同じぐらい好きかもしれない」
「二人ともいいなぁ、僕は本屋はつまらないよ、字もわからないし、絵も写真も面白くない」
二人とは対照的にパンプキンは目を伏せがちです。
でもパンプキンは店内に貼られたポスターを見ると大きな声を上げました。
それはボルダリングという壁を登る室内スポーツのジムが新しく開いたというものでした。
「壁に登るの大好き。ここに行きたい」
パンプキンの声を聞いたお店の人が声をかけました。
「すぐ近くですから、私がご案内しましょう。お兄さんは素晴らしい腕の筋肉をお持ちですからきっと上達も早いと思いますよ。実は私も先月から通っているのです」
お店の人に案内されて三人はボルダリングのジムにやってきました。
数人の人たちが体にロープをつけて壁を登っています。パンプキンは目を輝かせて壁に飛びつくと、みんなが見ている前でスルスルと腕の力だけで登ってしまいました。
あまりに突然のことなのでジムの人も、登っていた人も何事が起こったのかよくわからない顔でしばらくポカーンとしていましたが、パンプキンが無邪気に上から手を振っているので、手を振返しています。
「パンちゃんは、喜んでいるけど私はファッションじゃないからここで喜びたくない」
「そうね、私はもう少し様子見てからパンちゃんと帰るから、サンちゃんは一人でどこかでファッションに寄って帰っていいわよ」
ファッジとサンドリヨンはそう話してから、もう一度本当に嬉しそうな姿のパンプキンを見上げました。
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