企画麻布十番キャット三銃士

04 十番、噂の三人

麻布十番キャット三銃士~第4回

三人がお昼までに戻ってきてくれたのでひょうこ先生は、安心していました。
でもどうしてあの三匹の猫が三人の人間になってしまったのか、いくら考えてもわかりません。
三人は、ソファーで疲れて寝ています。

電話が鳴りました。
商店会の会長さんからでした。

「ひょうこ先生、十番商店街で妙な事が起きているみたいなんです。みんなが噂してるんですよ。三人の若者なんですがね、ガタイの良い茶髪の青年がいて、店に入って来ては何も言わないで出てゆくそうなんです。それから目のクリンとした女の子ですが、道ゆく人の後をついて回って匂いを嗅ぐそうなんですね。それからものすごい美人がいて、その女性がお店の前で焼いた鶏肉を見つめているらしいんですね。それで渡すとその場で食べ始めるのですがお金も払わずにどこかに行ってしまうそうなんです」

「うちの三人だ」
ひょうこ先生は、すぐにピンと来ました。

「それでもし先生のところにもその三人が来たら、こちらまで連絡欲しいということでお電話してるんです」
会長さんはそう続けました。

「ちょっと待ってくださいね、その美人は全部でいくらぐらい買ったんでしょう」

「五件回ってますから、一万円ぐらいは買っている事になりますが、どうしてです」

「私が払います、ひょっとすると姪が、甥かも知れませんがとにかくですね、食べた代金は今から払いに伺いますので」
そういって急いで電話を切ると、ひょうこ先生は三人を残して出かけていきました。

一時間ほどして先生が帰ってくると三人はいつものようにテーブルの上に乗ってお昼ご飯を催促しました。
「あなた達、ちょっと聴きなさい。今朝みんな街に出て何をしてきたか言ってごらんなさい」

「見回りだよ、」

「そうなの。パンプは誰かに迷惑はかけてない?」

「扉を開けたり、出たり入ったりしただけだけど」

「ファッちゃんは迷惑かけてない?」

「良い匂いの人や、面白い人の匂いを嗅いだわ」

「サンちゃん、あなた買い物してもお金払ってないでしょ?」

「お金って知らないわ、だってもらったから食べたのよ」
三人はケロリとして言いました。

「良いですか三人とも、どういうわけで人間になったかは知らないけど、その格好で人の家に出たり入ったりしたり、匂いを嗅いだり、食べ物をお金払わずに食べたらダメなの。わかる?」

「わからない」
三人は声を揃えて言いました。

「あなた達は猫なのに人間の姿になっちゃってるのよ。それで猫なんだけど人間みたいに見えるの。だから人間らしくしなくちゃダメなのよ。外では」

「わかったよ、マム。人間らしくするよ」

「用事もないのに勝手に扉を開けちゃダメ。それから人に寄って匂いを嗅ぐのもダメ。お金を払わないで食べ物を食べるのもダメ」

三人はうなずきました。

「わかったらささみを茹でるからそれを食べなさい。サンちゃんは食べ過ぎてるみたいだからもう食べないで頂戴」
ひょうこ先生はテキパキと言ってキッチンへ向かいました。

アメリカから来た姪と甥です

その日の午後、商店街の会長さんが病院にやって来ました。

「今朝の電話のことですがね、ひょうこ先生が買い物の代金を払ってくれたおかげで、十番では、あの若者たちと先生に何かつながりがあるのではと大変噂になっておりまして、そして小生も商店街を代表する立場でありますことから、ここはひとつ、先生にお聞きするしかないと思い伺った次第でございます」
会長さんは長い口上を述べました。

ひょうこ先生も三人があれだけの行動をして目立たないわけはないと思っていましたし、あの子たちがこのまま人間の姿になっているのなら、どこかで説明する必要もあるかなと考えていました。でも、会長さんを前にして本当のことを言ったところで信用してくれるとは思えませんし、却って気でも違ったと思われたら困るので

「実はあの子たちは私の甥と姪で、アメリカ生まれのアメリカ育ちなんです。昨日の夜に来てしばらくここにいる事になります。日本人離れしているところがあるようですが、温かい目で見守っていただければ幸いです」
と言ってしまいました。

よくそんな嘘が口から出たと自分でも感心してしまいましたが、これからどうなるのか分からない状態ですのでしょうがないと思う事にしました。

会長さんは「そうでしょう、そうでしょう」と一人で納得して帰って行きました。

そして、三人を呼んでひょうこ先生はこう言い渡しました。
「あなたたち三人が猫に戻るまではこの街では変なことはしないこと。それからアメリカの甥と姪という事になっているから、街の人にあったらちゃんと挨拶しなさい」

「オイとかメイとか、アメリカとか分からないけど、大丈夫だよ」
とパンプキンが言います。

「マム、心配しないで私が勉強しておくから、パンちゃんにも教えておきます」

「ファッちゃんが頼りよ、あなたは頭のいい猫だから」

「マムのスマホも、少しいじってずいぶん使えるようになったから色々わかるようになると思うの」
ファッジはもうネットを使いこなしているようです。

「マム、お店で何かもらっても食べては、いけないのはどうして」
サンドリヨンが聞きました。

「お店はものを売るところだから、お金を払わなくてはダメなの、サンちゃんは猫だからお金持ってないでしょ」

「猫ってお金持っちゃダメなの」

「普通の猫は持ってない」

「私は持ちたい」
サンドリヨンはワガママです。

「あなたたちにお金を待たすわけには行きません、お金はトラブルの元なのよ。必要なものがあれば私が揃えてあげるから。猫がお金を使うなんて聞いた事ない」
ひょうこ先生ははっきりと言いました。

「猫に小判という諺があるから、小判なら持ってもいいんじゃないかと思います」

「ファッちゃん、そういう意味じゃないのよ、小判も昔のお金なんだから」

「マム、サンちゃんはお金がないと食べ物が食べられないと思って心配しているんだと思います。でも心配しないでサンちゃん、お金なくてもスマホで決済できるから」
ファッジはすましていいました。

「わかりました、それほどいうなら三人にはお小遣いとして千円づつあげます。その範囲で食べ物を買うことは許可することにしましょう。ファッジ、私のスマホは戻してね」

三人は、ひょうこ先生からお小遣いをもらうとまた街に出て行きました。

(南部和也)

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