02 見た目は人間、中身は猫のまま
麻布十番キャット三銃士~第2回
キッチンのテーブルの上にいつもなら三匹の猫たちが朝ごはんを待って座っているはずでした。
しかし、今日の朝、ひょうこ先生が見たのはテーブルの上に乗った三人の若者、一人は体格のいい頭が茶髪の男性で、歳は二十歳ぐらいでしょうか伏せ目がちで少しシャイな感じ、後の二人は女の子、一人は小柄で背が低くて、黒髪のショートヘアー、目のクリンクリンした頭の良さそうなこれも二十歳ぐらいの女の子です。
それからもう一人は、背の高いスラットしたスタイルの良い女の子で髪はグレーで長くクールな眼差しを、ひょうこ先生に向けていました。
「あなたたち、ひょっとして」
ひょうこ先生はそこまで言いかけると、頭の中がぐるぐると回り始めてしまいました。三人の若者は姿形は人間ですが、その仕草や目の輝きでひょうこ先生の飼い猫の三匹であると獣医師の勘が教えてくれています。
「ファッフアちゃんとパンプとサンちゃんでしょ」
ひょうこ先生はやっと頭を整えて言いました。
「そうよ、マム」
ファッジは可愛い声で言いました。
「僕だよ、マム」
パンプキンは高い声で答えました。
「もちろん私よ、マム」
サンドリヨンは美しい声で言いました。
「今朝パンちゃんが引き出しからいい匂いのものを持ってきたから、みんなで嗅いでいたらいつの間にか人間になっちゃったみたい。なんだかドキドキしちゃう」
「私もびっくりだわ、でも何か食べたらまた寝ようかな」
「僕も人間にはなってみたかったけど、なんだか動きにくいね、この体は」
三人は口々に答えました。
「あなたがファッジでしょ、よくわかるわ、小さくてお目目が丸いから、サンちゃんは人間になっても綺麗でスマートね、パンプキンは本当に筋肉質なのね、猫の時よりもマッチョに見えるわよ」
ひょうこ先生は三人の目をしっかりとみてから一人ひとりの頭を撫ぜて言いました。
「三人ともテーブルから降りてちゃんと腰掛けて朝ご飯にしましょう。人間になったのだからテーブルの上に乗って食べてはダメよ」
それから三人は鶏肉を茹でてもらって食べると言いました。
「人間になったからお外に出かけていいでしょ、街を見て回りたいの」
「いいけれど、車に気をつけて。お昼までには帰ってらっしゃい」
三人は街へ出掛けて行きました。
「思わず出掛けてもいいと言ってしまったけど、あの子たち見た目は人間でも中身は猫。大丈夫なのかしら。ファッちゃんはなんでも匂いを嗅ぐ癖があるし、パンプはどこでもよじのぼって扉を開けたがるでしょ、サンちゃんはおとなしいけど食べるとなると際限なく食べるしどこにでも飛び乗っちゃうから心配だわ」
ファッジの好奇心、とにかく強すぎ
街に出た三人は、すぐに別々の方向へ歩いてゆきました。
好奇心の強いファッジにとって家の外は興味深いことの連続です。色々な匂いがします、たくさんの人の匂いや、食べ物の匂い、それから何かわからないもの、頭の中でそれが何か知りたくて好奇心が爆発しています。
ポストがありました。
お婆さんが手紙を入れているところで、ファッジはその様子を見つけるとどんどんと近寄って行きます。ポストに手紙を入れ終えたお婆さんが振り返るとファッジが不思議そうな顔で立っていてお婆さんの匂いを嗅ぎました。
見慣れない可愛い娘が立っているのはいいのですが、匂いを嗅がれるとは思ってもいなかったお婆さんは苦笑いをして立ち去ろうとしますが、ファッジは鼻をピクピクさせてお婆さんの後をついてゆきます。
気味悪がるお婆さんは、歩く速さを早めます。
ファッジはついてゆくだけではなく、お婆さんの肩のあたりにほとんど顔をくっつけて盛んに匂いを嗅ぐのです。
「何かしら、この匂い」
「お嬢さんすいませんねぇ、膏薬を貼ってるんです。匂いましたか」
お婆さんは目を丸くして言いました。
ファッジはきみちゃんの像のある公園で道ゆく人の匂いを嗅いで回って、好奇心が満たされたのかお家に向かって歩き始めました。
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