PICK UPカウンセラーになりたい企画

いいカウンセラーの基準とは?

先日、カウンセラーやセラピストを選ぶ際の基準について質問を受けました。実際、資格を保持しているだけで、カウンセリングをあまりしたことがない人や、自身の人生経験や本や動画で学んだ知識のみで「心理カウンセラーになれる」と勘違いする危険な人もいます。また「最終的に、快復するのであれば何でもいい」と考える人もいて、いいカウンセラーに行きつくまでの失敗確率はけっして低くありません。

長く心理カウンセラーを養成するうえで、私が大切にしていることがあります。そして「素人はだまされるけれど、玄人の目はだませない」という判断基準もいくつかあります。今日はそれについてお話ししましょう。

心理カウンセラー育成に大切なこと
1 理論を学ぶ

臨床心理士や公認心理士資格では専門の大学院を卒業する程度の学力や知識が必要とされます。出題内容がそうなっているからです。大学院の入学試験でもほとんどのところで、英語で心理学に関する長文が出題されます。うちでもテキストを使用しますが、そこにある心理学用語と意味は覚えてもらいます。
フロイトやベックが何をした人かわからないようでは、カウンセラーとは言えません。カウンセリングのベースには心理学があります。一つの手法だけではなくトータルに人間を見ていく基礎理論が必要なのです。

2 スキルを学ぶ

次に、カウンセリングスキルをどの程度身につけているかです。大学院では臨床実習があります。誰でも最初の一歩はありますから、初回からベテランと同じ能力を要求するのは酷です。でも最低限の演習時間を経ないと「感覚」は身につかないでしょう。通信教育等で演習もなく〇か月で修了という資格を出すところは避けましょう。そんな資格をプロフィールに書くなんてもってのほかです。

あ、そうそう!プロフィールでは、カウンセラーがどこの機関で、誰から習得したのか、どれくらいの演習経験があるのかを確認しましょう。学んだルートがはっきりしていない人は、勝手に自分流のカウンセリングをしている可能性があります。

3 資質を理解する

カウンセラーになりたいという人から「資質」について尋ねられることがあります。私はまず国語能力だと答えます。相手の感情を含めて、話の内容を聞いて理解する力は読解力に通じます。感情に寄り添うためには共感的理解をする能力、つまり相手の感情を汲み取る(想像できる)豊かな人生経験と想像力が問われます。基本的に言葉を媒介として話を聴いていくのがカウンセリングですから、語彙も豊富でなくてはなりません。それをクライエントに説明する力や表現力も重要です。ここまでが、カウンセリングスキルに直接影響を与える資質です。

それに加えて、状況を分析する「数字頭」も必要です。これはデータ分析や数字を意識する能力です。思い込みを減らして客観的にものごとを判断するため、頭の中にもう一人の自分を作ります。いくつもの視点から状況を把握するためです。この数字頭は、こちらの考えを伝える時にも登場します。一つ目は何々、二つ目は其々という具合に、です。

第一印象も重要な要素です。コーチングと異なり、カウンセリングはカウンセラーとクライエントの関係性が構築されていない0地点からスタートします。どんな方がどのような内容で相談に来たとしても、「あ、このカウンセラーなら温かみがあって、何でも話すことができそう」という第一印象を備えていることが必要です。そのためには、こちらから先に自己開示し、カウンセラーの心が素直に相手に向いていることが鍵となります。自らの心をオープンにしていないと、クライエントは近寄れません。カウンセラーにはストレスや感情を自己コントロールすること、気持ちに正直に生きることも要求されます。

避けた方がいいカウンセラーとは?
1 言葉に怪しさがある

小難しい専門用語を使う人は、必要以上に自分を大きく見せようとするところがあります。熟知している人ほどわかりやすい表現をします。また、心理学を学んだ人にしかわからないキーワードがあります。例えば「コンプレックス」「認知」「執着」などです。コンプレックスというのは、スイスの心理学者カール・グスタフ・ユングが唱えた概念です。一般的に使用されるコンプレックスとは別ものであり、「その人の無意識にあって、気づかないうちに行動を支配している複合体」のことをいいます。

世の中で「私、気が小さいところがコンプレックスなの」というこのコンプレックスは、専門的には「劣等感」を指します。私もよほどではないと「コンプレックス」という言葉を使いません。表面的に取り繕っていても、そうした言葉の端々に、専門家から見ると「ん?(ここではそういう使い方をしないでしょう。本当に勉強してきたの?)」というにおいを感じるのです。

2 倫理を守らない

東京大学出版会から出ている『臨床心理の倫理を学ぶ』(金沢吉展著、2017)という本があります。カウンセラーだけではなく、臨床心理に携わる人が気をつけるポイントが整理されていておすすめです。守秘義務をはじめとして、インフォームドコンセントや利害関係、オファなど、カウンセラーが踏み越えてはいけない領域や死守するべき項目について詳しく書かれています。ただ、文字面だけで学んでいても、いざという時に自分の行動は止められないものです。これらは、演習や事例を通してマスターしていくものであり、こうしたことが身についていないカウンセラーは避けるべきです。

3 時間や金額の説明をしない

カウンセリング料は時間と費用をかけて学んできた証です。専門家はサービス(技術料)の値引きをしません。私がカウンセリングルームを開業してまもなく、50代の女性クライエントにカウンセリング終了後、「お金がないので値引きしてもらえませんか?」と言われたことがあります。「専門技術料なので値引きはしておりません」と丁重にお断りしました。

これにはもう一つ理由があります。カウンセリングは「契約」なのです(これもしっかり学ばないとわからない専門用語です)。カウンセラーとクライエントは、その時間内にその費用によって、トラブルや混乱を解決するために契約した関係です。それを、後になってどうこうするというのは失礼な話です。カウンセリングの冒頭に時間や料金、キャンセル等についての説明をするのは、カウンセリングのプロとして当然のことなのです。

いいカウンセラーは慈愛に満ちている

以上のように、「正式に」学ばないとわからないことがたくさんあります。それは「誰から学ぶのか」がとても大切です。残念ながらオンラインや文字だけでは伝わらない空気感が演習にはあります。以前、私から習ってもいない人に「師匠」と軽く呼ばれて、むっとしたことがあります。私の「弟子」たちは、10年以上もの時間と労力をかけて、私のそばでカウンセリングを体得してくれます。まるで職人のように、愚直なまでにカウンセリングを追究する私の信念を、間近で感じてくれました。命を預かる仕事に就くというのは、そういうことだと私は思っています。

あなたが本当に困って最後にカウンセラーにたどり着いた時、どのようなカウンセラーであってもらいたいですか? 私は、知識とスキルを十分に兼ね備えた、慈愛に満ちた人がいいです。そしてそうなるために、日夜精進しています。

(神田裕子)

パートナーが発達障害かも?と思ったときに読む本

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