カウンセリングにおける我流の危険性

そろそろ衣替えの季節になりました。浴衣姿で街を歩いていると、暑い夏もちょっとは涼しげに感じられます。
先日、着物を虫干ししていて思ったことがあります。和服に慣れていない時には、汗だくになりながら、たたもうとしていた、と。それが面倒なので、浴衣を着ない夏もありました。でも、和服には「ここをもって折りたためばすぐに角がそろう」というたたみ方の方法があります。このコツを知らずにいると、いつまでも我流でたたむしかありません。正絹はデリケートなので、高価な着物を傷めてしまうことになるともったいない!

心理カウンセラーにも初級・中級・上級がある

「我流の危険性」は、カウンセリングにもあります。
私が心理カウンセラーを養成する際に出す資格は、初級・中級・上級に分かれています。初級、中級はそれぞれ半年かけて、さらに上級の場合は2年間の実習後に、筆記と実技試験を受けて認定を許可するしくみになっています。それだけ厳しいのは、自死や行方不明など生命の存続にかかわるカウンセリングを担当することがあるからです。カウンセラーの短期間講座や、通信教育でテキストを送り実技を省略するような、紙切れ一枚の資格は考えられません。養成には、それ相応の時間数と経験を必要とします。

私の認定する初級資格は、「傾聴ができるレベル」です。カウンセリングマインドと呼ばれる心構えと、カール・ロジャースの来談者中心療法と呼ばれる基本的なスキルによって、クライエントを受容するレベルとなります。必要な資質についてよく質問されるので、私は「国語能力」と答えています。相手から聴いた話を理解して、鏡のように内容をフィードバックする表現力、そして質問によって内容を深く掘り下げる力は、国語の読解力に該当します。そういえば、テスト問題に「主題は何ですか?」「主人公の気持ちはどんなでしょう?」というのがありました。

次の中級資格は、「問題について先の見通しを立て、各種療法を使い分けできるレベル」です。この時点で、心理学やカウンセリングの知識とスキルについては、演習を通して体得していないといけません。精神分析的療法、認知行動療法、ゲシュタルト療法など様々な療法がありますので、「どういう状況でどの療法を用いるのか」という判断が問われます。カウンセリングの冒頭、ラポール(信頼関係)を築くことからスタートし、守秘義務等の説明、インテーク面接(この問題をカウンセリングで取り扱うことが可能かどうかを判断するために詳細を尋ねる)を経て、いよいよカウンセリングに入ります。一連のこの流れを客観的に見ていく能力も要求されます。

私は上級資格をなかなか認定しません(笑)。「あらゆる相談に対応できるレベル」と規定されていますので、合格するためには実績を積むことが必要です。誰にでも「最初の一歩」はあるので、開業できるのは中級資格以上と定めてはいますが、しばらくはスーパーバイザー(管理監督者・相談役)にスーパービジョンを受けながら、カウンセリングをおこなっていきます。

初級資格で複雑な相談内容を扱うのは危険です

いっぽうで“事件”も起こります。残念なことに、初級資格のみ取得した卒業生が勝手に開業する、というできごとがありました。規律を守るため、私はその方を破門しました。初歩的な知識とスキルだけで、複雑な相談内容を取り扱うのは危険です。「我流の危険性」と、最初に述べたのはこのことです。

楽器の演奏や踊り、料理などの習い事すべてがあてはまりますが、基本のうえに成り立つアレンジはとても魅力的です。もしも基本がなければ、単なる子どものお遊びにすぎません。「学ぶ」の語源が「まねぶ(倣ぶ・まねをする)」ではありますが、表面的にまねるだけでは、かえって力がついていないことを露呈させるでしょう。「技」の由来や歴史、こつ、そして師匠の信念を「盗んで」はじめて体得したと言えるのではないでしょうか。

(神田裕子)

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