PICK UP一日で悟りを開く方法企画

一日で悟りを開く方法 ①

一日で悟りを開く方法 ~「自分はいない」がワカルと世界がカワル

はじめに

仏教学者、佐々木閑は著書(*1)の中で、こう述べています。

“ほかに道はないのか。愚かな私たちにも可能な、より効率的な成仏の道はないのか――。この問題提起こそが、様々な大乗仏教を生み出す源泉となったのです。”

ブッダの時代の仏教では、出家してひたすら修行に励み、苦しみの源である煩悩を消し去ることでしか、人は真の安楽に達することができないと考えられていました。しかし、であればゴールは一部の人にしか開かれないことになりますし、諍(いさか)いのない平穏な時代はともかく、出家生活を送るのが難しいような乱世では、誰にとっても達成不能になってしまいます。そういう意味において、原理主義的な仏教信者からは、「そもそものブッダの教えと、全然違うではないか」との批判をうけやすい大乗仏教にも、その時代や地域性に沿った存在意義があるわけです。
いや、あった、と表現すべきでしょうか。

日本では聖徳太子の時代に仏教が広まり、鎌倉時代にやってきた「禅」は、俳句や茶といった、日本の伝統文化に幅広く影響を与えながら、今日まで長く受け継がれています。また、一九五〇年代には、鈴木大拙による「Zen and Japanese Culture(禅と日本文化)」が出版され、米国で禅ブームが巻き起こされるのと時を同じくし、日本でも多くの人が坐禅に興味をもち、在家禅にいそしむようになりました。
しかし、その後の仏教の衰退ぶりときたら、どうでしょう。人心は教えから離れ、「葬式仏教」と揶揄されるように、葬儀や法事においてしか存在感を示せない停滞ぶりが続いていますし、禅にも一時期の勢いはありません。しいて目立った動きを挙げるとすれば、伝統仏教の瞑想をベースとした「マインドフルネス瞑想」が、ストレス改善、能率向上といった、極めて世俗的な目的でもてはやされるようになったくらいで、それはそれで、もちろん悪いことではないのですが、「悟り」はまるで過去の遺物のように、一部のお寺や書籍の中で、かろうじて語り継がれるだけの遠い存在になってしまいました。
しかし仏教は元来、転迷開悟、すなわち迷いを転じて悟りを開く宗教であり、悟りこそが教えの根幹であるはずです。せっかくの悟りを、そして仏道を、このまま、おざなりにしてしまうのは、あまりにもモッタイナイではありませんか。

本来、人間が身を置くべき自然から遠ざかり、仕事や勉強で忙しく過ごしながら、かつ、インターネットなどで得る、強い刺激に翻弄されて続けている現代人でも、なんとか悟りを開き、仏道の恩恵を存分にうけながら、心豊かに生きて行く術はないものか。自らにそう強く問いかけた上で、医師、そして禅の修行者という、二つの視点からまとめ上げた方法論が、本書「一日で悟りを開く方法」になります。
仏教をさらなる大乗に、と目論んだわけです。

胡散臭いですか? ですよねえ。挑戦の大胆さに、書いている私自身も緊張で身が震える思いです。
でも、大丈夫、皆さんは悟れます。おそらく、たった一回の瞑想で悟れます。なぜなら大乗仏教が生まれた二〇〇〇年前と比べ、現代でははるかに科学が発展しており、ブッダの教えの中核について、すでに証明がなされているからです。科学的知見が、短くても数年、場合によっては一生の大半を捧げる必要があったであろう悟りへのハードルを、とても低いところまで押し下げたというのが私の見解であり、この本の執筆にいたった理由になります。

ちなみに仏教は、紀元前三世紀にインド亜大陸の統一を果たしたアショーカ王が、教義における多様な解釈を認めたことを契機にして、一気にインド全土に広まり、その結果、同じ仏教でありながら、教義が大きく異なる様々な宗派が生まれました。であれば、ここで私が仏教修行の新しい形態を提唱したとしても、大きな問題はありますまい。本書での瞑想・修行法を「悟り隊」と命名し、新しい宗派であることを、ここに宣言いたします(もちろん、総本山非公認)。この宗派への評価は、読者である皆さんが下してくれることでしょう。

本書は最初から順に、できれば丁寧に読んでください。たった一度の瞑想で悟りを開くというのは、普通に考えれば無茶な試みなので、もちろん私も書き手として最善をつくすとはいえ、皆さんにも真剣に取り組んでいただく必要があります。
昨今、書籍によっては、どこから読んでもいい造りになっているものもありますし、「好きなところから読んで」と著者自身が述べているケースもありますが、この本は違います。ミステリー小説を読むときのように、必ず最初から、流れに沿って読み進めてください。ミステリー小説と違うのは、謎は筆者である私が仕掛けるのではなく、あなた自身の中に、すでに存在しているという点。自分では気づかないまま、ずっと心の内側に抱えてきた周到なトリックを、名探偵よろしく、ぜひ、ご自身の手で解き明かしてください。そして、さらにそこから、仏道のパズルを一気に埋め尽くしてしまおうではありませんか。それらが全部、さほど厚くもない本書一冊で達成できるはずです。

心の準備はできましたか?
それでは、悟りの境地へと向かう短い旅を、共に歩み始めることといたしましょう。

生きとし生けるものが、みな、幸せでありますように。

───悟り隊・隊長 内山直

参考文献

*1 佐々木閑(2019)『大乗仏教―ブッダの教えはどこへ向かうのか』33‐8、51頁 NHK出版新書

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