企業の動向が一目瞭然になるCF3科目とは
ビジネスリサーチ・ジャパン(代表・鎌田正文)著の『2022年版 業界地図』(税込1320円 プレジデント社)が、8月中旬から全国の書店に並んでいます。
企業の経営成績は、基本的には財務3表に示されます。
「損益計算書(PL)」「バランスシート(BS/貸借対照表)」「キャッシュフロー(CF)計算書」の3表です。
『2022年版 業界地図』では、財務3表のなかでもCF計算書を重視。海外の主要企業を含め、CF計算書の重要3科目の「営業CF」「投資CF」「財務CF」の数値を掲載しています。類書と大きく異なる点です。
CF計算書の重要3科目である「営業CF」「投資CF」「財務CF」の数値を見ると、企業の動向が一目瞭然です。
営業CFの金額は、商品・製品の販売やサービスの提供で得たキャッシュから、支払いに要したキャッシュ(仕入代金などの原価、人件費、支払法人税など)を差し引いて求めます。企業活動の原点は、営業CFが黒字化(入金超)です。
投資CFは、基本的に入金よりも出金が多くなります。『2022年版 業界地図』では「△=赤字」で表記しています。将来に向けた投資活動を積極的に実施していることを意味します。投資CFの黒字(入金超)は、リストラを進めている企業といえるでしょう。
財務CFは、借入金の返済や自社株購入、支払い配当金などが、新たな資金調達を上回れば出金超(赤字)になり、新規の資金調達が多ければ黒字になります。
営業CFが「〇(入金超)」、投資CFが「△(出金超=赤字)が基本的なパターンです。キャッシュが足りなければ財務CFを「入金超」にし、キャッシュが足りていれば「出金=△」にして調整します。企業運営の基本の基本です。この点だけを押さえれば、複雑そうに見える企業の財務諸表を理解できたといっていいでしょう。
『2022年版 業界地図』の中から主な企業を例にとりましょう。20年ないしは20年度の数値です。
企業名 | 営業CF | 投資CF | 財務CF |
アサヒグループHD | 2758億円 | △1兆2433億円 | 9567億円 |
武田薬品工業 | 1兆109億円 | 3935億円 | △1兆883億円 |
パナソニック | 5040億円 | 1765億円 | △1777億円 |
ANA HD | △2704億円 | △5957億円 | 1兆981億円 |
日本航空(JAL) | △2195億円 | △910億円 | 3886億円 |
JR東日本 | △1899億円 | △7493億円 | 9833億円 |
ホンダ | 1兆723億円 | △7968億円 | △2839億円 |
日立製作所 | 7931億円 | △4588億円 | △1848億円 |
トヨタ自動車 | 2兆7271億円 | △4兆6841億円 | 2兆7391億円 |
ソニーグループ | 1兆3501億円 | △1兆7815億円 | 6669億円 |
ビールを主力とするアサヒグループHDは、20年に豪州のビール・サイダー事業を1兆1682億円で買収しています。そのため、投資CFは出金超(赤字)を示す「△」でした。金額は買収額に相当しています。財務CFはほぼ1兆円の入金超(黒字)です。買収資金は借入など外部から調達したことを意味します。
武田薬品工業とパナソニックは、投資CFが入金超でした。投資活動を控えたということです。とくに、武田薬品工業は19年に6兆円超の大型買収を実施し、多額の借入金を抱えることになったこともあり投資活動を抑制。一方で、財務の健全化を図るために、借入金の返済を急いでいます。財務CFは1兆円超の出金超過になっています。
ANAHDや日本航空、JR東日本など空運・鉄道各社は、コロナ禍の影響を受けました。営業CFが赤字になることを想定していた人は皆無でしょう。手元キャッシュの積み増しに動きました。財務CFが入金超になっています。
ホンダの場合は、「営業CFの黒字額」と「投資CF・財務CFの赤字額」がほぼ同額です。日立製作所は、黒字額がやや上回っています。多くの企業に見られるパターンです。「営業CF+投資CF+財務CF」がほぼゼロであれば、企業活動は継続できるということです。
リース・クレジット子会社を抱えるトヨタ自動車や生損保・銀行などの金融子会社を擁するソニーグループのように金融事業の比重が高い場合は、一般的なパターンと異なるケースもあります。銀行なども同じです。