お金は早く手にしたほうが得なワケ
ビジネスはお金で回っています。お金は預けることで利息を生み大きくなります。お金も成長するのです。ここから、現在のお金と将来のお金で、価値が変わるという発想が生まれます。
現在の100万円と3年後の100万円は価値が違う?
次の例を考えてみましょう。
今すぐもらえる100万円と3年後にもらえる100万円では、どちらの方が価値が高いでしょう?
この問いへの答え方は、いくつかあります。
たとえば、「早く自分の手元にある方が、チャンスが来た時にすぐ使える。だから、今すぐもらった100万円の方が3年後にもらう100万円より方が価値が高い」というのもひとつの正解です。
では、「今すぐ100万円をもらっても、それを使えるのは3年経ってから」という条件がついたらどうでしょう? 実は、3年間そのお金が使えなかったとしても、今の100万円の方が、3年後の100万円より価値が高いのです。ポイントは、金利です。つまり、お金は運用すればその額がどんどんと増えていくのです。
今すぐ100万円を手にした場合、その資金を3年間運用することでその100万円の価値は上がっていきます。その結果、今の100万円は3年後には100万円以上の価値になります。だから、今の100万円は3年後の100万円よりも価値が高いと言えるのです。
仮に金利(年利)が5%だったとしましょう。この場合、1年毎に資金は1.05倍ずつ増えます。今の100万円は3年後には、以下の計算式のようになります。
100万円×1.05×1.05×1.05
=100万円×1.053(1.05の3乗)
=115万7625円
つまり、3年後での比較では、今もらえる100万円は3年後にもらえる100万円より、「15万7625円価値が高い」と言えるのです。
将来の価値を現在の価値に換算する
逆に考えてみましょう。3年後の100万円を現在に換算した場合、いくらに相当するかです。年利5%の場合、1年間で1.05倍にお金が増えます。ある時点のお金の価値を1年前に戻した場合、その価値は1.05に相当する分だけ目減りすることになります。
100万円を1.05で割ること(100万円÷1.05)で算出できます。計算すると、95万2380円になります。3年後の100万円を今の額に直すには、1.053で割ればいいのです。式にすると以下です。
100万円÷1.053
計算すると、86万3837円になります。これが、3年後の100万円を現在の価値に直した場合の金額で、将来価値である100万円に対する「現在価値」と言います。
将来価値は成長した結果の額なので、それを現在に戻して評価するためには、金利で割り引かれることになります。この割合を「割引率」といいます。確かめるためには、86万3837円に1.05を3回かけます。
86万3837円×1.053=100万円
このように、ちゃんと100万円に戻ってくれます。
将来利益が見込める投資かを判別する
実際のビジネスシーンに当てはめて考えてみましょう。
ある企業は今後10年間にわたり、毎年500万円ずつの収益が得られるような投資プロジェクトを検討しています。このプロジェクトの初期費用は4000万円、資産価値は毎年5%で成長していくものとします。このとき、このプロジェクトは投資の価値がある(利益を見込める)でしょうか?
収益と費用を計算してみると、次のようになります。
・収益の合計=500万円×10年=5000万円
・出ていく費用=4000万円
2つを比べると、収益の合計が出ていく費用よりも大きいことがわかります。一見「投資が正解」のように感じますが、投資すべきではないのです。
ポイントは「資産の価値は毎年5%で成長する」です。今後10年間にわたり毎年500万円の収益が得られますが、将来の額は現在に換算すると目減りするのです。10年後の500万円を現在価値に直すには、1.05で10回割ればいいので、
500÷1.053
となります。計算結果は、306万9566円です。こんなに目減りするのです。同様に、9年後の500万円に対する現在価値は、以下です。
500÷1.059=322万3044円
このように、10年後から1年後までの10年間の500万円に対する現在価値をそれぞれ計算し、それらを全て加えます。これが、10年間に収益の現在価値の合計です。10年間の収益500万円について、それぞれの現在価値を計算したのが下の表です。
1年後 | 2年後 | 3年後 | 4年後 | 5年後 | 6年後 | 7年後 | 8年後 | 9年後 | 10年後 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
現在価値(万円) | 476 | 454 | 432 | 411 | 391 | 373 | 355 | 338 | 322 | 307 |
これらを合計すると、約3861万円です。この投資プロジェクトの初期費用は4000万円でした。このプロジェクトで見込める収益の現在価値の合計額は、3861万円です。費用と収益の現在価値を比べると、費用が収益を上回り、プロジェクトの利益はマイナスになります。よって、この投資プロジェクトは「実行する価値がない」という結論になります。
割引を考慮せずに単純に収益を合計した場合、500万円×10年=5000万円という計算になります。一見すると、初期投資の4000万円と比較して利益が見込めるように思えます。ところが、資産は時間の経過とともに成長するという観点では、4000万円の支出は割に合わないことになるわけです。
現在価値の計算は、エクセルを使えば一発
エクセルの「関数」は、数学の「関数」と同様、決まった計算を一度に処理します。「割引率が5%のもと、今後10年間に渡り毎年得られる500万円の現在価値の合計」を計算する関数もあらかじめ備わっています。
手順をご紹介しましょう。まずエクセルで適当なセルを選択し、半角で「=」と入力してください。それから関数を指定します。現在価値は英語でPresent Valueなので、PVと入力してださい。すると下のように、画面に現在価値を計算するために必要な条件(引数)を入力するよう求められます。
今回の条件は「利率(割引率)」、「期間」、「定期支払額」の3つです。順にカンマで区切って指定します。今回は、割引率が5%(=0.05)、期間が10年、毎年の受取額が500なので、(0.05,10,500)です。エンターキーを押すと「-3861」と表示されます。このように一発で現在価値が計算できるのです。
表示が「-」になっているのは、エクセルでは定期「支払」額を指定する形になっているためです。結果をプラス表記にしたい場合は、「定期支払額」の引数を500ではなく、-500にします。
エクセルを使いこなせるようになると、数値に対する感覚が磨かれます。ビジネスパーソンとしてよりステップアップするために、エクセルにも強くなりたいものですね。
ピンバック: 鈴木伸介(すずき・しんすけ) – media2~メディア通