出版の強化書

出版プロデューサーとは何か?

日本では著者と出版社が直接やり取りしますが、欧米ではエージェントが仲介するのが普通です。出版のプロであり企業である出版社と、業界知識のない一個人である著者が対等の立場でゼロから一を作り上げる。業界に通じていて、双方を知る仲介者が必要なのは当然です。それならなぜ、日本では仲介者が一般化しないのでしょうか? この記事では、エージェントとしての出版プロデューサーについて解説します。

出版プロデューサーは著者側に立って出版というプロジェクトを円滑にすすめるプレイヤーです。
業務は、出版企画書の作成、出版先の選定、出版社との条件交渉、編集者・デザイナーなどのアサイン、予算・スケジュール管理など多岐にわたります。

著者が不利にならないよう出版社と条件交渉を進める一方で、出版社からの「信頼」も不可欠です。時として、知識不足から過剰要求する著者を抑え、締め切りを守り、原稿のレベルを引き上げる役割を担います。外部編集者やブックライターに発注すること含めてリスクをとる存在でもあります。出版決定後のプロデューサー最大の役割は「プロジェクトを空中分解させずゴールに導く」ことです。

出版プロデューサーの介在の仕方には、2通りあります。出版プロデューサー側が企画を作って、それに相応しい著者にオファーするケースと、出版希望者がプロデューサーに依頼するケースです。費用は、前者では印税按分が基本ですが、後者の場合、それに加えてコンサル料や仲介料が発生します。

出版へのアプローチには、エージェントやプロデューサーに依頼する以外に、出版スクールや出版塾にかよう方法もあります。金額は守備範囲と事業者にもよりますが50万円前後が多いです。サポート内容によっては100万円を軽く超えることもありますが、ビジネス書著者が手にするブランディング価値からすれば有利な投資と思います。

では、出版プロデューサーになるのはどんな人たちなのでしょうか?
一般には、その職業があること自体認知されていないので、業界外から出版プロデューサーになる人は少数です。多くは出版社勤務の編集者やマーケティング担当者が独立して始めるケースや、著者からの転身組です。専業で活動を継続していくのは簡単ではなく、一線で長く活躍しているのは、関連業界からの転身組や営業経験者などを中心とした一部の人たちです。

出版プロデューサーは玉石混交

私も出版プロデューサーを名乗っていますが、もとは専門書の出版社で教育書を編集していました。その後、印刷会社の営業、編集グループを経て出版プロデューサーとして独立しました。きっかけは、政治ジャーナリストの鈴木哲夫さんから「プロデューサーさん」と呼びかけられたことでした。当時、私は編集グルーブで『石破茂の頭の中(ブックマン社)』という本を作っていました。鈴木哲夫さんはその著者です。企画を出版社へ提案して、出版が決まれば編集・制作メンバーをアサインして本づくりをスタートさせます。その活動の名前を私は知らず、営業と捉えていました。鈴木哲夫さんに、話しかけられて、はじめて「私の仕事は出版プロデューサーというのか」と知って、名乗るようになったのです。

このように出版プロデューサーに資格はありません。テレビや音楽業界では組織に所属するプロデューサーが多く、彼らはプロデューサーという立場を与えられます。一方で出版プロデューサーは個人事業者が多く、基本私のように「自称出版プロデューサー」です。
そのため「玉石混交」で、出版コンサルタントや出版コーディネーターとの区別なくプロデューサーを名乗って活動している人も少なくありません。出版社側の立ち位置から著者に接するプロデューサーも見かけます。

出版の世界は「契約書が出版直前につくられる」という特殊な商習慣があります。業界外の人に話すと一様に驚かれます。当然、トラブルも少なくないのですが、なぜそのようなことが、まかり通るかについては別記事で解説します。

出版プロデューサーは、出版トラブルを回避するために、さまざま配慮しなければなりません。ところが「その出版プロデューサーが信頼できる」ということが、その前提なのです。出版は狭い業界です。信頼できない人物が長く業界の一線で活動することはできません。依頼するときには、過去の実績、取引のある出版社など手間を惜しまず調べることが必要です。

(中野健彦)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です